クライオEM

クライオ温度下で生物試料をより自然な状態で観察します

概要 製品 メディアライブラリ 研究の着目点 パブリケーション リソース トップに戻る
概要: 

スウェーデン王立科学アカデミーは、2017年のノーベル化学賞を”溶液中の生体分子の構造を高い分解能で決定するためのクライオ電子顕微鏡の開発”に貢献したとして、ジャック・デュボシェ、ヨアヒム・フランク、リチャード・ヘンダーソンの3氏に授与すると決定しました。Scientific Background on the Nobel Prize in Chemistry 2017: The Development of Cryo-Electron Microscopy

クライオEMは、Gatan社の直接検出カメラ (K3® および K2®) のテクノロジとイノベーションによって牽引されています。

分解能の効率的フロンティア     メリット     クライオEMのワークフロー

クライオ電子顕微鏡における単粒子解析法とは?

単粒子解析クライオ電子顕微鏡(クライオEM)は、構造生物学者が原子分解能で構造を解明するために使用する手法で広く採用されています。この手法はX線結晶構造解析法を補完するもので、結晶試料がなくても構造上の詳細が明らかになります。ガラス質(非晶質)の氷で凍結水和した試料を観察することにより、試料の超微細構造、緩衝液、および配位子分布が元の状態のまま保持されます。また、クライオEMは、90 kDaより大きい試料の研究が可能となる核磁気共鳴(NMR)を使用した構造解析を補完します。構造生物学者はクライオEMを頻繁に使用して、超分子集合体またはマシンにおける分子の相互作用のほか、ウイルス、小さな細胞器官、および高分子の生物学的複雑性を研究しています。

クライオEMの観察時には、同一でありながらランダムに配向した何千から何十万もの粒子(分子)の高分解能像を各試料から記録するために、透過型電子顕微鏡(TEM)が使用されます。次に、複数の3次元的な分子配向を区別するため、これらの画像は画像分類アルゴリズムを使用して分類、整列、平均化されます。クライオEMは、1.5Å以下の分解能 で分子構造を解明できます。これは、数年前には想定し得なかった分解能レベルです。

クライオEMの分解能のこの急速な向上は「分解能革命」と呼ばれ、直接検出カメラの直接的結果です。電子顕微鏡の従来のカメラは、シンチレーターを使用して電子の像を光の像に変換し、光ファイバーを使用してその画像をアナログ記録用CCDまたはCMOS画像センサーに転送します。観察結果が変換されて記録されるまでの間に高分解能像の細部が失われ、長い間クライオEMは真の潜在能力を発揮できませんでした。

従来型カメラでは変換ステップで細部の情報が失われるため、直接検出カメラでは電子の像を直接測定しています。Gatan K3 カメラは、像を記録するために 超解像技術を備えた電子カウンティング を採用した独自の直接検出型カメラです。この技術では、アナログの読み取りノイズを排除し、個々の電子をリアルタイムで認識およびカウントします。Gatan社の直接検出型カメラでは、比類ない0.5ナイキストにおける 量子検出効率 (DQE) を実現しています。

分解能の効率的フロンティア

Gatanの直接検出型カメラは、多くの場合、GIF Quantum LSイメージングフィルタと組み合わされ、分解能の効率的フロンティアを再定義する成功的な結果を出し続けています。最先端の結果を示す論文では、最新のデータ取得および画像処理方法を備えたこれらの製品が、βガラクトシダーゼの2.2オングストローム構造 など、より小さな分子をより高い分解能で再構築する最前線にいることを示しています。

グラフは単粒子クライオ電子顕微鏡法を用いた論文における分解能と分子量との間の関係を示しています。Gatanの直接検出型カメラは、様々な分子量に対して分解能の限界を拡げる多くの構造解析に用いられています。

単粒子解析クライオEMのメリット

単粒子解析クライオEMでは現在、X線結晶構造解析と同等の分解能の構造が得られるようになっており、その技術には構造生物学者の 注目を集める 数多くの独自のメリットが存在します。:

能力 メリット
自然な水和状態で構造を観察 標本や緩衝液の濃度など、生物学的に関連した環境に試料を維持
より大きな集合体の研究が可能 不均一、準安定性、または結晶化が非常に困難である複数のサブユニットを含む150 kDaより大きな分子のキャラクタリゼーションに有効
原子分解能の構造を解明 αらせん、βシートに加え、非対称側鎖、水素結合、および水分子の観察が可能
化学的な環境を制御 さまざまな機能状態で分子を観察するために実験条件を変更可能
結晶化のステップを排除 時間を要する不確定な試料準備が不要、論文のパブリッシュまでの時間を短縮

 

単粒子解析クライオEMのワークフロー

ステップ1: 精製

単粒子解析クライオEMで分子を研究するには、高品質の3次元再構築を行うために試料は精製され構造的に完全である必要があります。理想的には、試料を生化学的に活性な状態に保つ緩衝液に保持する必要があります。試料内の分子は、顕微鏡で観察を行うのに十分高い濃度である必要がありますが、それらが凝固するほど高くならないようにします。最終的に、関心のある分子の均一の立体配座状態を促進するよう実験条件は最適化されます。

ステップ2: 急速凍結

各試料は、電子顕微鏡の真空内での凍結乾燥を防ぐために凍結されます。ほぼ瞬間的な凍結は、試料の構造を破壊する水の結晶が形成されるのを防ぎます。

まず、溶液中の少量の試料をTEMグリッドに付着させてから、ろ紙で余分な液体を取り除きます。TEMグリッドを液体エタン、または液体エタンと液体プロパンの混合液に浸して試料を素早く湿らし熱を奪うことで、非晶質またはガラス質の氷を生成します。画像は、試料を付着させ液体の冷媒に浸す直前の状態の Cryoplunge® 3 システムです。

ステップ3: TEMへの搬送

試料を凍結したら、液体窒素温度に試料を保持する専用のTEMホルダーに移動します。試料の汚染を防ぐため、試料をホルダーに装填する際には、クライオワークステーションが試料を保護します。また、ワークステーションからTEMに移動する際には、クライオシールドがそれをカプセル化します。この図では、 クライオトランスファーホルダー がTEMへの挿入前にワークステーションから取り外された状態を示しています。

ステップ4: 試料の像観察

試料の構造は、電子線照射により損傷を受けます。通常、高分解能の構造情報が失われる前までに、合計10~30e-2の電子線照射量が利用可能です。試料の損傷を防ぐには、低電子線照射量イメージング法を使用して目的の場所に移動し、像を取得する直前だけ電子線を絞ります。

電子カウンティングと超解像モード を備えたGatanの直接検出型カメラによって実現された高いDQEによって、弱い生物系試料に対しても最高のクオリティの像が取得可能です。この高いS/N比により、粒子の3次元再構築における水分子、イオン、および配位子構造を区別することができます。最高75フレーム/秒でフルフレームを保存し、後に試料の動きを補正しドリフトを最小化する、Gatanの直接検出型カメラに備えられた 分割露光 機能を利用することで像質を更に改善することが可能です。

ステップ5: 解析と再構築

像の撮影が終了したら Gatan Microscopy Suite® ソフトウェアが解析をサポートしデータを様々なフォーマットへとエクスポートします。Gatan社製カメラで得られたデータは、3次元再構築と可視化のためのEMAN、Frealign、Relionといったサードパーティのソフトウェアツールにインポート可能です。左図は 2.8 Åの分解能での20Sプロテアソーム の3次元クライオEM密度マップを示しています。

リソース:

 
トップに戻る